私は、江川達也という漫画家がどうも好きになれない。
私が江川達也の漫画を初めてみたのは週刊少年ジャンプ連載の『まじかる☆タルるートくん』だったと思う。そのときは特に好きも嫌いもなかった。印象といえば、たまに出てくるお色気を意識したヒロインの水着のカットくらいしか残っていない。
『まじかる☆タルるートくん』の連載終了から何年も後、テレビに江川達也が出ているのを偶然見かけたことがある。テレビでみた第一印象は「薄汚いオタクのおっさん」だった。ウェーブ(天然パーマ?)のかかったボサボサの長髪に、四角い顔に肉が付いていて、その上に無精ひげがトッピングされていて、縁なし眼鏡の奥の目はどうひいき目にみても下品そうに見えた。何を言っていたかは忘れたが、色々理屈を並べていたのは覚えている。ただ、彼の理屈にあまり納得した記憶もない。
数年前、弟の部屋にあった『GOLDEN BOY』を読んだ。主人公の成年が、行く先々で女にモテまくるという設定に、本宮ひろ志の『俺の空』をまんまパクっただけじゃないか、と驚いた覚えがある。
後半になると、日本(世界?)をまとめ上げるような体制を作るような大物と、それに対して自由で無頼のようなスタンスを取る主人公という構図が現れてきた。後にこれが、江川達也のデビュー作『BE FREE』に出てきたテーマであることをどこかで読んだのだが、どうやらこの人の最大の関心事の一つは、「体制(システム)vs個人」というような構図のようだと知る。同時に、後半にはいるとその「個人」の視点から色々説教がましいことも飛び出してちょっと食傷気味になった。と、その説教が終わると途端にエロが爆発して尻切れトンボで終わっていった。途中で連載を切られたというようなことを聞いたが、何が言いたかったのかよくわからない。主人公のような「個人」が、「世の中にだまされるな! 自分の人生は、自分で切り開け、自分で自立して生きていくしかないんだ、自分で考えろ!」というようなメッセージを込めていたとしたら、残念だが福本伸行の『賭博黙示録カイジ』や『無頼伝涯』の方が圧倒的に、そのメッセージ性も、エンターテイメント性も上だった。
『日露戦争物語』は今でも買っている。はじめ読んだときは、正直「今度は司馬遼太郎の『坂の上の雲』のパクリかよ!?」と思わなくもなかったが『GOLDEN BOY』などに比べるとストーリーを淡々と書いているので他の江川達也と比べれば比較的説教くさくなくて抵抗も少なかった。しかし、巻を追うごとに絵がだんだん見にくいものになってきている。ラフ画チックな画風は、戦争のシーンでは動きのダイナミックさを表現している部分もあるが、全体的には単に絵の処理が雑なだけなんじゃないの? と感じなくもない。
で、去年か一昨年あたりに『サイゾー』誌で連載していた「江川式勉強法」という漫画をみて絶句した。どう見ても小林よしのりの『ゴーマニズム宣言』の江川達也版なのだ。それ自体は構わないが、そこでの主張は正直読むに耐えないものがあった。ごくごくおおざっぱに言えば、「ドラえもんは日本人の依存心を強める」だの「高次の戦争はマインドコントロール戦だ」だの、突っ込むところが多すぎて読んでてしんどいかった。
ここまで書いてきて言うのも何だが、私にとって江川達也の主張していることは結構「言わんとしていることはわからんでもないな」と思うことはあるのだ。ただ、同時に感じてしまうのはその底の浅さである。
「体制vs自立した個人」みたいな構図は古くて新しいものだし、あまり読書量のない私が読んできた中でも、もっと面白い分析や鮮やかな切り口でこの問題を論じたものはいくつもあった。また、こういった問題を抽象モデルを抽出して漫画の中であれこれ論じるやり方自体は悪くないのだが、いかんせんそのモデルが問題の本質を矮小化されているので、説得力が感じられない。
これについては、本当は江川作品を全部読んできっちり論を展開するのが筋なのだと思うが、残念ながら私にはそれをする時間も費用も熱意もない。従って、以上はあくまで私の個人的な印象と言うことで片づけさせて頂く。
※ もし江川作品について「お前、読みが甘い」とおっしゃる方がいらっしゃれば、よろしかったらコメントを下さい。
以上、江川達也の作品について思うところを述べさせてもらった。しかし、私が本当に好きになれないのは作品ではなく江川達也という人の方である。あの人の漫画家としてのスタンスや倫理観について、次回書いていくことにする。
(この項つづく)
《関連記事》
・ダメなもの「漫画家・江川達也」(1)
・ダメなもの「漫画家・江川達也」(2)
・ダメなもの「漫画家・江川達也」(3)
《参考文献》
・江川達也『GOLDEN BOY』(集英社)
〃『日露戦争物語』(小学館)
〃『BE FREE』(講談社漫画文庫)
〃『まじかる☆タルるートくん』(集英社文庫)
〃「江川式勉強法(連載終了)」『サイゾー』誌(インフォバーン)
・小林よしのり『ゴーマニズム宣言』(幻冬舎文庫)
・司馬遼太郎『坂の上の雲』(文春文庫)
・福本伸行『賭博黙示録カイジ』(講談社)
〃『無頼伝涯』(〃)
・本宮ひろ志『俺の空』(集英社文庫)


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