すでに「人権擁護法案」については、あちこちのサイト・ブログ等で批判が百出している。今更私如きが書いたところで屋上屋を架すようなものかも知れないが、この件については反対の意思表示をすること自体に意味があるだろうと思い直し、以下、この法案について考えてみたい。
恥ずかしながら、掲示板で教えていただくまでこの法案についてはほとんど知らなかった。で、こちらのサイトを見てびっくりした。「怖い」というよりも先に、こんなデタラメな法律案が国会の場で検討されていることにまず驚いた。
憲法を勉強していると、表現の自由が以下に重要な権利であり、その規制には慎重であるべきかが、それこそ嫌というほど論じられている。
民主主義は自由な議論・言論によって担保される制度であり、その議論の際に偏った議論にならないよう求められるのが広い知識や情報である。国民がその知識・情報を知り、より公平な議論をし、より妥当な意思決定をするために、表現の自由というのは必要不可欠な権利であり、それは最大限保障されなければならない。
確かに、表現の自由についてはプライバシーの権利との衝突や名誉毀損など、他の人権との衝突などが不可避的に発生する。しかし、その際、表現の自由に対する制限についても、表現の自由の重要性に鑑みて、必要かつ最小限のものに限定されている。「物言えば唇寒し」ではないが、表現の自由の規制については広範な「自主規制」という「萎縮効果」を伴いがちなので、特に厳格に判断されている。
これはまともな憲法の本であればどれにでも書いてある基本的な事項である。
が、人権擁護法案はこの憲法(学)の基本すら踏まえられていない無茶苦茶な代物である。ここまでバカな法律案が出されたこと自体、はっきり言って国辱モノである。この法案を出した国会議員は全員国会議員としての資質・適性を欠くと断言してもいい。憲法から勉強し直すべきである。
詳しくは前掲のまとめサイトをご覧いただくとして、いくつか指摘しておく。
まず、そもそも規制すべき「人権侵害」の定義があまりに曖昧である。以前「罪刑法定主義」について少し書いたが、人権侵害として規制されるのがどのようなことかが漠然として分からないのでは、表現の自由(憲法21条)についての規制として意見である以外に、憲法31条にも違反する。
また、人権擁護委員会というところは裁判所の令状なしに立入り検査・財物没収などができるとある。これは住居侵入・捜索・押収に対して裁判所の令状がなければならないとする憲法35条に違反している。
このほかにも特定の団体が人権委員になることで特定の政治的言論を狙い打ちで弾圧することが可能になるなど、この法案の問題点は挙げ出せばきりがないのでやめておく。
この法案を読むにつれ「憲法を勉強してきたけど、俺が何を勉強してきたことって一体何なんだろう…」という虚無感にすら襲われる。
* ちょっと感情が先走った文章であり、この法案についてフォローしていると上記批判が妥当でない箇所も散見されるようになったので、一度上記記述を削除させていただく。
それにしても汚いのはメディアである。普段は「国民の知る権利を代表して行使している」などと勝手に国民の代表面して、国民の知る権利の名の下に報道被害をさんざん垂れ流していたくせに、人権擁護法案の中にメディア規制の文言があると知るとメディア規制の文言のみ削除を要求した。もちろん、ネットなど一般国民の表現の自由には触れもせず。
これが自分たちの既得権益だけを守ることでなくて何だというのだ! メディア規制と国籍条項だけを取り上げているマスメディアは、ネット上の表現は自分たちにも噛みついてくるから規制に賛成して報道を意図的に歪めている(つまり国民の表現の自由などどうでも良いと思っている)のだろうか。それとも本当にこの法案の問題点がわかっていないのか。どちらにせよ、国民の知る権利を代表して行使する者として失格であることに変わりはない。大体、人権擁護法の目的からして一番規制すべき対象であるメディアに規制がなされなければ、本末転倒どころかそもそもの目的が達成できないではないか。
ここまで書けばもう言うまでもないのかも知れないが、一応明示しておく。
人権擁護の名の下に違憲の法律を作り、国民の人権に広範な制限を加える人権擁護法案は即刻廃案にすべきである!
以下、余論として
そう言えばどこかで、人権委員の選定がまともなモノになればオッケー、と言うような意見を見た。この法案のセキュリティホールをパッチワーク的に修正されるまでは反対、というような意見も見た記憶がある。ちょっとどちらについても、どこで見たかを失念してしまったので明記できないのが申し訳ないが、パッチワーク的な修正でどうにかなるようなものだとは到底思えないので私はこれにも反対である。
そもそも、ネット上の表現に限らず、表現行為による法益の侵害については現行刑法(名誉毀損罪、侮辱罪等)と民法上の損害賠償請求で対処すべきであり、かつ基本的にそれで十分である。なぜなら、法益侵害を受けた被害者自体が存在しないのに表現を規制する理由がないからだ。
私は、表現の自由という大きな利益を守るためには、誹謗・中傷あるいは低レベルな表現の発生という小さな不利益については、これをコストと解して国民が甘受すべきだと思う。そして、その上で、看過できない具体的法益侵害が発生した場合については、その法益侵害という事実によって事後的に対処されるべき(具体的には削除要求や、前述の刑事法・民事法による法的制裁など)と考える。
人権侵害の態様などを考慮し、事後的な対処(特に侵害行為の訂正・削除など)を速やかにする手段は考慮されるべきだと思う。しかし、その場合も基本的には「具体的な法益侵害」が無ければならないというのが私見である。
本来、表現の規制を考えるのなら、まずどこまでが許されてどこからが許されないものなのかについて明確な線引き(基準)がなされなければならないし、その基準については(日本人の大好きな)「議論を尽くし」た上での国民の(相当多数の)広い同意が得られなければならない。ネットという技術・メディアだけが先行し、その弊害であるネット表現での人権侵害やその規制・許容範囲についての議論が尽くされないどころか広く国民に共有されてもいない内に、先に規制手段(それもおっそろしいまでにまずい手段)にだけを検討したからこうなるのである。発想が逆だ。
そう言えば、明確な人権侵害と誰もが認めるようなものでない限り処罰されないだろう、という楽観的な意見も見られたが、これなど罪刑法定主義の基本すらわかっていないと評価せざるを得ない。確かに法律は多様な現実に対応するためにある程度「解釈の幅」というものが求められはするが、「人権侵害」だの「不当な差別」だの「その他の人権を侵害する行為」だのという「定義」*など、ほとんど何も定義していないに等しいと解すべきだろう。
* 人権擁護法(案)
(定義)
第二条 この法律において「人権侵害」とは、不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為をいう。
2 この法律において「社会的身分」とは、出生により決定される社会的な地位をいう。
3 この法律において「障害」とは、長期にわたり日常生活又は社会生活が相当な制限を受ける程度の身体障害、知的障害又は精神障害をいう。
4 この法律において「疾病」とは、その発症により長期にわたり日常生活又は社会生活が相当な制限を受ける状態となる感染症その他の疾患をいう。
5 この法律において「人種等」とは、人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向をいう。
(人権侵害等の禁止)
第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
一 次に掲げる不当な差別的取扱い
イ 国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い
ロ 業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い
ハ 事業主としての立場において労働者の採用又は労働条件その他労働関係に関する事項について人種等を理由としてする不当な差別的取扱い(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第八条第二項に規定する定めに基づく不当な差別的取扱い及び同条第三項に規定する理由に基づく解雇を含む。)
二 次に掲げる不当な差別的言動等
イ 特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動
ロ 特定の者に対し、職務上の地位を利用し、その者の意に反してする性的な言動
三 特定の者に対して有する優越的な立場においてその者に対してする虐待
2 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為
二 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをする意思を広告、掲示その他これらに類する方法で公然と表示する行為
(了)
《関連記事》
・ダメなもの「人権擁護法案」
・人権擁護法案再考(覚え書き1)
・人権擁護法案再考(覚え書き2)
《リンク先》
・『人権擁護法案BLOG(臨時)』
・「人権擁護法(案)」
『法務省』
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『人権擁護(言論弾圧)法案反対!』
posted by だっしー at 10:39| 大阪

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